桐野夏生「夜また夜の深い夜」読書感想文(ネタバレ含む)

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夜また夜の深い夜読書感想文

読んだら書く。私のための読書感想文シリーズです。

おもいっきりストーリーに触れるしへたしたらオチまで書いちゃうかもしれないのでご注意を。

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1. 書籍の概要

「夜また夜の深い夜」桐野夏生著

  • 出版社 ‏ : ‎ 幻冬舎 (2014/10/8)
  • 発売日 ‏ : ‎ 2014/10/8
  • 単行本 ‏ : ‎ 373ページ
  • ISBN-10 ‏ : ‎ 4344026500
  • ISBN-13 ‏ : ‎ 978-4344026506

2. 夜また夜の深い夜 あらすじ

娘にすら本名を明かさず、頻繁に整形を繰り返す母親と二人暮らしの主人公・マイコ。アジアやヨーロッパの各国を転々とし、学校にもまともに通わせてもらえない。

国籍もパスポートもなく、いつも貧しい暮らしをしている。母はマイコに邦人と接触することを固く禁じ、自分たちがなぜこのような生活をしなければならないかを決して語らない。

子どものころは「そんなものか」と受け入れていたものの、ハイティーンになったマイコは自分たちの違和感に気づき始める。

彼女は雑誌で見かけた自分と似たような境遇の「七海さん」に手紙を書き続け、小説のほとんどはその手紙で構成されている。

イタリア・ナポリで暮らし始めて4年、マイコは日本人のシュンと出会い、彼の経営するMANGA CAFEに通う。

外の世界と接点を持つことで一層母への不満が募り、主人公は家をとびだす。

そこで同じように国籍のない同世代の女の子たちと出会い、この世界の地獄と、自分の出自を知ることになる。

3. モチーフとなる事件などは存在する?

桐野夏生さんといえば、東電OL殺人事件をモチーフにした「グロテスク」や山岳ベース事件をテーマにした「夜の谷を行く」、実際の漂流事件を参考にした「東京島」など、実際の事件のアウトラインを把握しておくとより一層小説の世界への理解が深まる作品が多い。

本作においては、

「整形を繰り返し、住居を転々としている」
「たまに日本人男性が訪ねてきてお金をおいていく」

などの描写から、主人公・マイコは日本赤軍関連の逃亡犯の娘だろうか…?と想像したが、

どうやら手紙の宛先「七海さん」がそうであるように推測する(作中で、母親が逮捕されたり病気になったり、それで自身が帰国することになったり……という描写あり)。

4. 夜また夜の深い夜、とは、何を指すのか(個人の解釈)

主人公マイコは母と離れ、日本人であるシュンや、難民キャンプから逃げてきた同世代の女の子たちと知り合う。

マイコは自分の境遇の不幸さを嘆き、日本のMANGAに救われるが、世界には、日本のMANGAが救わないもっと深い地獄の谷が広がっている。

たとえば現代でも戦争が続く国がある。

銃を持つのは分別のある大人だけではない。

銃に打たれるのは職業軍人だけではない。

死ぬよりも怖いこと、痛いことがたくさんある。

彼女と出会う少女たちは、親兄弟が目の前で殺され、自分も生きるために誰かを殺し、生きていくために虫を食べ地下に潜る。

前半何もしらないのんきなおぼっちゃまのように描かれている邦人・シュンにもまた、村社会日本で穏当に暮らせない剣呑な事情がある。

暗闇と思ってもまだその先があって、地獄の先に地獄がある。

「開けない夜はない」の対になるのが「夜また夜の深い夜」ではないかと思った。

ショッキングな内容を含み、どう考えても相当に不幸なのだけど、18歳19歳が書きそうな「稚拙さのリアルっぷり」に何なら少し腹も立てながらサクサク読めてしまう。

(過剰な説明だとは思うが、「一人称の稚拙な文体」は桐野先生のお家芸でもある。その幼さに腹を立てながら、氏の手のひらの上で踊らされていることが楽しいという奇妙な読書体験ができる)

ふと、文章の中でマイコが少しずつ自分中心の世界から脱し、成長していくことに気づいて、また最初から読み直してしまった。

共感性ばかりがエンタメとして消費される昨今、この小説に限っては誰の気持ちにも寄り添えぬまま、それでもページをめくる手が止まらなかった。

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