いわし小説:エコバッグの森

いわしの買い物

「袋はお持ちですか?」

数十秒前のやり取りをもう後悔している。

ノートパソコンと手帳、どうせ開かないTOEICの本、どうせやらない持ち帰り仕事、鞄の奥底から発掘したエコバッグは見るも無惨にしわくちゃになっている。

明るいスーパーの店先で、周りに知り合いがいないか慌てて確認する。

満員電車から吐き出された重たい体を引きずって改札を抜け、スーパーで牛乳と食パンとヨーグルトを買う。

安いと飛びついた卵は6個入りで、やはり今日も買わなかった。

お迎えの前にスーパーに寄ったことがバレないように、保育園の駐輪場では自転車のカゴをシートで覆う。

「まだ遊びたい」とごねる子供達を前後のシートに押し込んで、坂道を駆け上がる。

子供達の手を洗う。

洗濯機を回す。

在宅勤務の夫が食べた昼食の皿がシンクにそのまま置いてある。

せめて水につけてと小言を言いながら買ってきたものをしまう。

子供が牛乳を飲みたいという。飲ませる。案の定、こぼす。

床を拭いて子供の服を着替えさせる。

YouTubeを見たいと騒ぐが無視をする。

電話が鳴る。

電子レンジが鳴る。

ルンバが助けを求めている。

肉と野菜を炒めて味噌汁を作り冷凍しておいた米を温める。

キッチンの床に、空になったエコバッグが申し訳なさそうに落ちている。

もうそれを畳む気力は残ってない。

明日また、私はこのしわくちゃのエコバッグを見るだろう。

私そのものみたいなエコバッグを、あの白熱灯の下で。

もう、何もかも嫌になる。

だから……シュパット。

楽天スーパーセール期間中半額…

シュパットマジ便利、たたまなくていい、シュパットまじ便利。なんで「エコバッグをたたむ」って一瞬のタスクができないかわからないくらい、夕方疲弊してる。不思議。

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