世界一参考にならないヒプノセラピー体験記

いわしの人生ログ

ヒプノセラピー(催眠療法)をうけてきた。10年くらい前に友達から「なんか心がスッキリした」という話を聞いて、ずっと気になっていた。

コロナで気持ちが滅入っていたし、私の潜在意識の世界をブログに書くぞ、と意気込んでいった。

結論、世界一参考にならない体験をした。

アンサーファーストを重んじるビジネスパーソンとして最初に言う。この記事は、これからヒプノセラピーをうけようと思う人、何かに救いを求めている人、ヒプノセラピーの効果を知りたい人には一切参考にならない。

効果がなかった、きかなかった、という話ですらない。

ヒプノセラピーとは

日本臨床ヒプノセラピスト協会によると、ヒプノセラピーとは以下のように定義されている。

ヒプノセラピーとは、「催眠」と呼ばれる変性意識状態を利用して潜在意識に働きかけ、心因性の問題の低減、解消を図るセラピーです。

ヒプノセラピーには、催眠下で暗示を与えることで悩みの解消や自己改革を行う手法や、幼児・幼少期の記憶を思い起こして原因を探る「年齢退行療法」などがあります。

また、スピリチュアリズムの観点からヒプノセラピーを利用する方法として、前世の人生を体験して様々な気づきを得る「前世療法」や、愛する故人との魂のコミュニケーションを行うことで癒しにつながる「悲嘆療法」などがあります。

日本臨床ヒプノセラピスト協会(https://www.jbc-hypno.org/hypnotherapy)から引用

なかなかスピリチュアルな話であるが、まあ、スピリチュアルな話なのである。

なぜヒプノセラピーを受けようとおもったのか

普段、株主総会がどうの、取締役会がどうの、契約がどうの、固定資産税がどうの、雇用調整助成金がどうの、有価証券報告書がどうのなどと現実と現実のサンドイッチみたいな生活をしているので、たまには思い切り「現実とちがうところ」に出かけたくなる。

もうなにもかも忘れて全然違う世界に行きたい…いわゆる現実逃避に近い。

ヒプノセラピーでは「思考の癖をただす」みたいな効果もあるとのことから、このグチグチ悩みウジウジ苦しむ夜から抜け出す鍵が見つかるかもしれないという思惑もあった。

いざ、ヒプノセラピーへ

ネットで適当に探して、メールで予約が完了した。メールで指示されたのはマンションの一室。

10畳くらいの小奇麗なマンションだった。こじゃれたアロマエステサロンのような雰囲気であり、特に宗教臭もなければ妙なスピリチュアル臭もない。

40代とおぼしき女性が一人で運営しており、これまた「熟練のエステシャン」といった雰囲気だった。

テーブルをはさんでカウンセリング。家族構成、仕事の話、小さいときのこと、育児の話など、彼女の質問に答えていく。

私はあらゆる些末なことをぐだぐだ考えすぎることによって不眠の症状に悩んでおり、できればそういうものから解放されたい、というような話をした。

催眠の世界へ

テーブルから、座椅子にうつる。コロナのこともあって、セラピストが私に触れることはない。座椅子に体を横たえて、セラピストが1mほど離れた場所でゆっくり催眠をかけていく。

「呼吸に集中してください」

「腕に集中してください」「つまさきに集中してください」「肩に集中してください」

呼吸と集中。ボディスキャン。これはスピリチュアルというよりマインドフルネスに近い。

そのうち、「では私が7つ数えます…」といよいよ催眠術っぽくなってきた

金縛りにあうような感覚!

セラピストの誘導により、私はすっかり催眠状態に入った。催眠術というと胡散臭い感じもするが、実際に一定の効果があることはすでに研究の結果明らかになっている。

腕を動かそうと思っても動かない、目を開けようと思ってもあかない、しっかりと催眠状態に入っていることが自分でもわかった。

(私はこういうものにかかりやすいのだ)

感覚としては金縛りに近い。夜中に半分目が覚めて、脳は起きているのに体が寝てしまっている状態。そのうち、現実と夢の境界があいまいになっていく。

催眠によって私は潜在意識の中に潜り込んだ

セラピストの穏やかで落ち着いた声は、私を花畑に連れていく。花畑、といっても、これはセラピストの言葉を通じて私が勝手に脳内で作り上げたイメージである。

最初は地元の野原が浮かび、長崎のハウステンボスのチューリップ園が浮かび、千葉のコスモス畑が浮かぶ。次々に「花畑」の映像がふわふわと浮かんでは消えていく。

そしてある瞬間から、完全な花畑の映像が浮かんだ。四方菜の花が咲き乱れ、遠くには山が見える。ここはどこでもない、知らない花畑だったが、花の匂いがし、感触がし、実際に風を感じた。

私は催眠にかかっている。

「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」(村上春樹)でいうところの、「壁の世界」に私は入り込んだのだ。

川のイメージ、子供…花畑…そして…

セラピストは私に歩くよう促す。花畑を進んでいくと川がある、という。

しかし川もまた同じである。知っている川の映像が浮かんでは消えていく。淀川。利根川。木曽川。近所の用水路。そしてイメージがすこしずつ固まっていく。

川だ。

私は完全に爽健美茶のCMの世界にいる。

セラピストが言う。「川の向こうに、小さな子供がいませんか?」

視線を向こうに見やると、子供がいる。小さな子供…女の子…娘だ。

「娘がいます」
「いいえ、それはあなたです」
「私…ではないです、娘です」
「いいえ、あなたです」

セラピストとひと悶着。

しかしそのうち、娘の様子が変わってくる。明るく元気ではつらつとしている娘が、どんより暗い、拗ねた様子になってくる。外遊びで焼けた肌が、青白くなる。

私だ。

娘ではなく、私の幼少期。暗く、陰鬱で、グダグダと物事を考えて、図書館にこもってばかりの私の幼少期。

セラピストの言葉によって誘導されたのだろう。いわゆる「インナーチャイルド」との遭遇である。

インナーチャイルドとの遭遇

内なる自分。インナーチャイルド。半ばセラピストから強引に連れ出されたであろう私の中の私は、陰鬱な視線をこちらに向ける。

アメリカのカウンセラーであるジョン・ブラッドショーは、著書「インナーチャイルド―本当のあなたを取り戻す方法」(1993年)の中で交流分析療法の理論とその技法、アダルトチャイルドの概念を統合して、大人になっても変わらないまま続いている、子ども時代の思考パターンや習慣をインナーチャイルドと名付けた。

ヒプノセラピーでは、いわゆるインナーチャイルドを映像化させ、潜在意識の中で対話させる。

大学で犯罪心理学をかじったことがあり、矯正のためのアセスメントとして似たようなカウンセリングを体験したことがある。その時はいまいちイメージ化に成功しなかったが、この日、「小さな子供」は私の目の前に登場したのだ。

インナーチャイルドが発した、衝撃のひとこと

川の流れはごうごうと強く、岩にぶつかった水しぶきの冷たさすら感じる。それに、時間がたつにつれて水嵩が増しているように思う。一定に保たれているはずの室内で、冷たい風を感じる。

幼少期の私が、川をはさんで、こちらをじっと見ている。

セラピストが言葉を続ける。

「その子供はあなたに…何かを言っていますね…どうしたのか聞いてみてください」

私はじっと子供を見る。子供は口を開く。

「おしっこ」

確実に、はっきりと、完全にそういった。

その瞬間、猛烈な尿意におそわれた。もう、ちょっとやそっとじゃない。次のサービスエリアまであと10キロ、完全な事故渋滞で一切車動かずといったレベルの尿意である。

空気を読む私、困り果てるインナーチャイルド

いまここでトイレに行きたいと言ったらセラピストはどうするだろうか。困るんじゃなかろうか。なんか催眠をとくにもあれこれ準備がいるときいたことがある。申し訳ない!これはちょっと聞かなかったことにしょう!!!!

私は空気を読みすぎるタイプの人間である。三世代同居の家に長女として生まれ、母と祖母の不穏なキッチンから逃げ、両親の喧嘩の仲裁をし、弟の面倒をよく見た。空気を読むことが何よりも得意なのだ。

セラピストが言う。

「子どもは何かいっていますか?」
「ちょっと…聞こえないですね…」
「そうですかぁ、何か言ってはいるんですよね?」
「あ…なんか、んーーちょっと言っている感じではあるんですけど…」

完全に言っている。おしっこ、とはっきり言っている。そして完全におしっこに行きたい。今すぐ行きたい。GoToトイレ。トイレに行けるなら助成金払う。

「なんか…あの、大丈夫です…気持ちが…軽くなりました」

なにがどう大丈夫かわからないし気持ちは全然軽くなってないし膀胱の方は激烈に重たくなってるんだけど、どうにかこの場から離れたくてクロージングに移った。

青白い子供は明らかに内またになってもじもじしている。川はさらにごうごうと音をたて、とにかく水が、とにもかくにも水がたくさん流れている。

インナーチャイルドに別れを告げて現実の世界へ

セラピストの丁寧な誘導によって(もういい、本当全然丁寧なやついらん)催眠はとかれ、体は自由になった。

帰り際、なんか言っていたような気がするがほとんど聞いていない。私は、とにかく、トイレに行きたいのである。

お金を払って、逃げるようにマンションを飛び出た。駅前のコーヒーショップのトイレに駆け込む。

インナーチャイルドもにっこりの、スーパーすっきりタイムが訪れた。
心がすっきりするかどうかはわからないが、とにかくすっきりした。

これからヒプノセラピーに行く人にこれだけは伝えたい

トイレに、先に行くこと。利尿作用のある飲み物は控えること。

あろうことか私はセラピー直前にドトールでアイスコーヒーLサイズを飲んでいた。飲むな。

私は2万円払って、この学びを得た。アイスコーヒーLサイズは、ダメ、絶対。

イメージが固定化する世界は面白かった

おしっこ行く前に体験したイメージの世界は興味深かった。脳の作用によって世界がかわっていく、もしかしたら一生そこに居続けることも、可能かもしれない。まさに、小説の世界だった。

インナーチャイルドは、あなたの悩みなんて生物的な排泄欲の前ではちっぽけなものです、ということを伝えたかったのかもしれない?違う?違うか。

ごめんね。また会いに行くよ。小さな私。

これにてヒプノセラピー体験記は終了!またいつかリベンジします。

たぶんトイレ問題さえクリアしていればもしかしたら本当にインナーチャイルドと話し合い、心の傷や思考の癖を見つめなおせたかもしれない(もちろんそうでないかもしれない)。すくなくとも催眠状態にまでいき、ただの想像ではなくほぼ完全なイメージの世界にまで誘導してもらえたので、なにかしらの作用はあるのだと思います。

ヒプノセラピーそのものを否定する意図はありません。(というか否定する材料もない、ただ尿意しかない)

こちらもオススメ

私の世界一参考にならないヒプノセラピーの話を読むくらいなら面白い漫画を読んだほうが良いです。

それではごきげんよう

タイトルとURLをコピーしました